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更くる夜

       内海誓一郎に 

毎晩々々、夜が更(ふ)けると、近所の湯屋(ゆや)の
  水汲(く)む音がきこえます。
流された残り湯が湯気(ゆげ)となって立ち、
  昔ながらの真っ黒い武蔵野の夜です。
おっとり霧も立罩(たちこ)めて
  その上に月が明るみます、
と、犬の遠吠(とおぼえ)がします。

その頃です、僕が囲炉裏(いろり)の前で、
  あえかな夢をみますのは。
随分(ずいぶん)……今では損(そこ)われてはいるものの
  今でもやさしい心があって、
こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、
  感謝にみちて聴(き)きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。

 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)

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<ひとくちメモ>

特定の個人に贈る詩を

献呈詩などと言ったり

誰それに捧ぐ、捧げる、とか

Dedicated  to~

Devoted  to~などと

付記することがあります。

詩集「山羊の歌」には、すでに

「ためいき」が、河上徹太郎への献呈詩でしたから

この「更くる夜」は2番目になり

内海誓一郎へ献呈されています。

この詩は

「白痴群」第6号に載りました。

内海誓一郎は、

音楽集団「スルヤ」のメンバーで

「白痴群」の同人にもなった人物ですし、

何よりも記憶されなけれならないのは

中原中也の詩「帰郷」「失せし希望」に

曲をつけた音楽家です。

この曲は

昭和5年(1930年)5月の「スルヤ」発表会で演奏されました。

中也の喜びを想像するのは

難しいことではありません。

献呈には、感謝の意味が込められています。

そんなことを知りながら

詩を読んでいくと……

毎夜、深夜に、湯屋で水を使う音が聞こえてくる

湯屋とは銭湯のことです。

銭湯は深夜には営業を終えているはずですから

終業の掃除か、店の者だかが入浴しているのか……

排水溝のほうから湯気があがり

その向こうの夜空は真っ黒な闇が広がる

武蔵野の風景

月が輝いて

犬の遠吠が聞こえてくる。

その頃になるときまって

ぼくは囲炉裏の前で

あえかな、弱々しい、

うっすらとした夢を見るのです。

今になっては、欠けてしまって完全ではないのだけれど

やさしい心がまだあって

こんな夜にそれがだんだん膨らんできて

つぶやきはじめるのに

ぼくは感謝に満ちた気持ちで聞き入ります。

昭和初期の東京の

杉並とか中野とか世田谷とか渋谷とか

それらはみんな武蔵野の一角でしたから

これも特定する必要はありません。

囲炉裏があったか

たとえば昔の火鉢は

四角い、小さな囲炉裏のようでしたから

それを詩人は使っていたのかもしれません。

酒を飲んでいる風にも見えず

創作に向かうひとときか、合間か

しみじみと思いに耽る

詩人。

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