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黄 昏

 
渋った仄暗(ほのぐら)い池の面(おもて)で、
寄り合った蓮(はす)の葉が揺れる。
蓮の葉は、図太いので
こそこそとしか音をたてない。

音をたてると私の心が揺れる、
目が薄明るい地平線を逐(お)う……
黒々と山がのぞきかかるばっかりだ
――失われたものはかえって来ない。

なにが悲しいったってこれほど悲しいことはない
草の根の匂いが静かに鼻にくる、
畑の土が石といっしょに私を見ている。

――竟(つい)に私は耕やそうとは思わない!
じいっと茫然(ぼんやり)黄昏(たそがれ)の中に立って、
なんだか父親の映像が気になりだすと一歩二歩歩(あゆ)みだすばかりです

 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)

 

<ひとくちメモ>

 

「黄昏」について、

大岡昇平は、

当時の桃園は中央線の東中野と中野駅の中程の南側、線路から

七、八町隔った恐らく田圃を埋めたてて出来た住宅地である。

 下宿の裏には蓮池があって、私には、

 蓮の葉は、図太いので

 こそこそとしか音を立てない。(「黄昏」)

 の句は、この下宿と切離しては考えられず(略)

──と、「中原中也『Ⅱ朝の歌』」(角川文庫)

の中で書いています。

蓮池を前にしてたたずんでいる詩人は

蓮の葉が擦れ合う音を

先ほどから聞いています。

夕方です。

大振りな蓮の葉がこすれあう様子を

図太いのでこそこそとしか音をたてない

と観察し、表現する。

この鋭敏な感性は

詩人に先天的なものであると同時に

この詩を作った時期に

詩人が追い込まれていた

ピリピリと張り詰めた心境を

映し出しているものです。

長谷川泰子が詩人の元を去ってすぐに

詩人は

杉並・高円寺の住居を払い

中野・桃園へ引っ越しました

恋人と別れた後の心境が

この詩の

蓮の葉の擦れ合う音を聞く詩人の心に

反映しています。

葉音が聞こえてくると

ぼくの心も揺れるのです。

揺れる心の目には

夕暮の薄明るい地平線を追うと

黒々とした山の稜線が

静かに横たわっているのが見えるばかりです

ああ

失ったものは帰って来ない! 

泰子はもうぼくのところに戻らないであろう

悔恨の念がじわじわともたげてきます

悲しいことはいろいろあるけれど

これほど悲しいことはありません。

この悲しみの上に

今度は蓮の根っこの匂いが鼻をつくのです

悲しみが根っこの匂いにまみれて

汚れてしまい

畑の土や石くれまでもがぼくを見て

何かを言いたそうにしている……

(ここには、汚れた悲しみのモチーフが芽生えています)

いや、待ってくれ

だからといって

ぼくは、耕やそうとは思わないよ!

とても月給取りにはなれない!

ぼくは、後戻りはできないんだ!

黄昏の中にしばらくぼんやりしていると、

親父の像が浮かんできたりするので

それを潮に

ぼくはぼくが決めた道を行くほかにない、

と一歩一歩踏みしめるように歩きはじめました。

前作「秋の一日」に続いて

志を確認する

詩人宣言の詩になっています。

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