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冬の雨の夜

 
 冬の黒い夜をこめて
どしゃぶりの雨が降っていた。
――夕明下(ゆうあかりか)に投げいだされた、萎(しお)れ大根(だいこ)の陰惨さ、
あれはまだしも結構だった――
今や黒い冬の夜をこめ
どしゃぶりの雨が降っている。
亡き乙女達(おとめたち)の声さえがして
aé ao, aé ao, éo, aéo éo!
 その雨の中を漂いながら
いつだか消えてなくなった、あの乳白の脬囊(ひょうのう)たち……
今や黒い冬の夜をこめ
どしゃぶりの雨が降っていて、
わが母上の帯締(おびじ)めも
雨水(うすい)に流れ、潰(つぶ)れてしまい、
人の情けのかずかずも
竟(つい)に密柑(みかん)の色のみだった?……

 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)

 

<ひとくちメモ>

季節は冬だというのに雪じゃなくて雨……。

しかも、土砂降りの雨……。

ああ!

これだけで絶望を

観念するのに十分ではありませんか?

いいえ

中也の詩は観念なのではありません。

しなびた乾し大根が

夕方のほの暗い灯の中に吊られています。

幼い日に、故郷の村で目撃した景色です。

あの陰惨さならまだよかった。

いま、冬の夜に土砂降りの雨

それに……。

死んだ女たちの声さえ聞こえてくるではありませんか

aé  ao,  aé  ao,  éo,  aéo  éo!

アウアオ、アウ アオ、エオ、アウオ ウオ

このあたりは

アルチュール・ランボーの影響が指摘されています

中原中也は

昭和4年から8年の間のいつか

ランボーの「ブリュッセル」を翻訳しますが

この詩の第10行に

烏の群れだ、オ イア イオ、イア イオ!……

とあるのを翻訳した後で

自作詩の中に「死んだ女たちの声」として取り入れたらしいのです。

オノマトペ(擬音語)や

ルフラン(繰り返し)など

音やリズムに格別な関心を抱いていた詩人が、

ランボーを翻訳する過程で

これを聞き逃すはずがなく

冬の雨の夜の陰惨なシーンを歌うのに取り入れました。

その雨の中を漂って、

いつだったか消えてしまった

氷嚢(ひょうのう)が次々に現れる……

これも幼い日の回想です。

中原中也の実家は

医院を営んでいた関係で

豚や牛の膀胱を加工した氷嚢が使用されていました。

その氷嚢が現れ

消える……

(死んだ女たちの肉体のイメージなのか?)

土砂降りの雨は

今いや増しに降りつのって

母さんの帯締めまでも雨に流して

壊してしまう……

過去と現在が

土砂降りの雨の中で

混濁します。

ああ 人の情けも

流され

潰され

仕舞いには

ミカンの色だけが残る

中身のないものでしたか?

最終行の末尾に

「?……」があるのが利いています。

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