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未発表詩篇〜草稿詩篇(1937年)

2012/04/11

秋の夜に、湯に浸り

 
秋の夜に、独りで湯に這入(はい)ることは、
淋しいじゃないか。

秋の夜に、人と湯に這入ることも亦、
淋しいじゃないか。

話の駒が合ったりすれば、
その時は楽しくもあろう

然(しか)しそれというも、何か大事なことを
わきへ置いといてのことのようには思われないか?

――秋の夜に湯に這入るには……
独りですべきか、人とすべきか?

所詮(しょせん)は何も、
決ることではあるまいぞ。

さればいっそ、潜(もぐ)って死にやれ!
それとも汝、熱中事を持て!

 

※    ※
    ※  

 

 四行詩

おまえはもう静かな部屋に帰るがよい。
煥発(かんぱつ)する都会の夜々の燈火(ともしび)を後(あと)に、
おまえはもう、郊外の道を辿(たど)るがよい。
そして心の呟(つぶや)きを、ゆっくりと聴くがよい。

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(嘗てはランプを、とぼしていたものなんです)

 
嘗(かつ)てはランプを、とぼしていたものなんです。
今もう電燈(でんき)の、ない所は殆(ほとん)どない。
電燈もないような、しずかな村に、
旅をしたいと、僕は思うけれど、
却々(なかなか)それも、六ヶ敷(むつかし)いことなんです。

吁(ああ)、科学……
こいつが俺には、どうも気に食わぬ。
ひどく愚鈍な奴等までもが、
科学ときけばにっこりするが、
奴等にや精神(こころ)の、何事も分らぬから、
科学とさえ聞きゃ、にっこりするのだ。

汽車が速いのはよろしい、許す!
汽船が速いのはよろしい、許す!
飛行機が速いのはよろしい、許す!
電信、電話、許す!
其(そ)の他はもう、我慢がならぬ。
知識はすべて、悪魔であるぞ。
やんがて貴様等にも、そのことが分る。

エエイッ、うるさいではないか電車自働車と、
ガタガタガタガタ、朝から晩まで。
いっそ音のせぬのを発明せい、
音はどうも、やりきれぬぞ。

エエイッ、音のないのを発明せい、
音のするのは、みな叩き潰(つぶ)せい!
 

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夏と悲運

 
とど、俺としたことが、笑い出さずにゃいられない。

思えば小学校の頃からだ。
例えば夏休みも近ずこうという暑い日に、
唱歌教室で先生が、オルガン弾いてアーエーイー、
すると俺としたことが、笑い出さずにゃいられなかった。
格別、先生の口唇が、鼻腔が可笑(おか)しいというのではない、
起立して、先生の後から歌う生徒等が、可笑しいというのでもない、
それどころか俺は大体、此の世に笑うべきものが存在(ある)とは思ってもいなかった。
それなのに、とど、笑い出さずにゃいられない、
すると先生は、俺を廊下に出して立たせるのだ。
俺は風のよく通る廊下で、淋しい思いをしたもんだ。
俺としてからが、どう解釈のしようもなかった。
別に邪魔になる程に、大声で笑ったわけでもなかったし、
然(しか)し先生がカンカンになっていることも事実だったし、
先生自身何をそんなに怒るのか知っていぬことも事実だったし、
俺としたって意地やふざけで笑ったわけではなかったのだ。
俺は廊下に立たされて、何がなし、「運命だ」と思うのだった。

大人となった今日でさえ、そうした悲運はやみはせぬ。
夏の暑い日に、俺は庭先の樹の葉を見、蝉を聞く。
やがて俺は人生が、すっかり自然と游離(ゆうり)しているように感じだす。
すると俺としたことが、もう何もする気も起らない。
格別俺は人生が、どうのこうのと云うのではない。
理想派でも虚無派でもあるわけではとんとない。
孤高を以て任じているなぞというのでは尚更(なおさら)ない。
しかし俺としたことが、とど、笑い出さずにゃいられない。

どうしてそれがそうなのか、ほんとの話が、俺自身にも分らない。
しかしそれが結果する悲運ときたらだ、いやというほど味わっている。

           (一九三七・七)
 

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少女と雨

 
少女がいま校庭の隅に佇(たたず)んだのは
其処(そこ)は花畑があって菖蒲(しょうぶ)の花が咲いてるからです

菖蒲の花は雨に打たれて
音楽室から来るオルガンの 音を聞いてはいませんでした

しとしとと雨はあとからあとから降って
花も葉も畑の土ももう諦めきっています

その有様をジッと見てると
なんとも不思議な気がして来ます

山も校舎も空の下(もと)に
やがてしずかな回転をはじめ

花畑を除く一切のものは
みんなとっくに終ってしまった 夢のような気がしてきます

 

▶音声ファイル(※クリックすると音が出ます)


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春と恋人

 
美しい扉の親しさに
私が室(へや)で遊んでいる時、
私にかまわず実ってた
新しい桃があったのだ……

街の中から見える丘、
丘に建ってたオベリスク、
春には私に桂水くれた
丘に建ってたオベリスク……

蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商(あきな)う路次の
びしょ濡れの土が歌っている時、
かの女は何処(どこ)かで笑っていたのだ

港の春の朝の空で
私がかの女の肩を揺ったら、
真鍮(しんちゅう)の、盥(たらい)のようであったのだ……

以来私は木綿の夜曲?
はでな処(とこ)には行きたかない……
 

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