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未発表詩篇〜早大ノート(1930年〜1937年)

2012/04/10

こぞの雪今いずこ

 
みまかりし、吾子(あこ)はもけだし、今頃は
何をか求め、歩(あり)くらん?……
薄曇りせる、磧(かわら)をか?
何をも求めず、歌うたい
ただひとりして、歩くらん

何をも求(と)めず、生きし故(ゆえ)、
何をも求めず、暮らすらん。
何さえ求めず、歌うたい、
さびしとさえも、云(い)い出(い)でず、
ただひとりして、歩くらん。

さば、かくてこそ、あらばあれ、
さてそののちは、如何(いか)ならん?
ただつぶらなる、瞳して、
空を仰いで、ありもすれ、
さてそれだけにて、あるらんか?

もし、それだけの、ことならば、
よしそのうちに、欣怡(よろこび)の、
十分そなわるものとしても、
なお今生なるわが身には、
いたましこととおもわるなり。

なにせよ分らぬことなれば
分らぬこととは知りながら
分りたいとは思うなり
吾子はも如何に、なせるらん。
吾子はも何を、なせるらん。

想いもとどかぬことなれば
想いとどかぬことかなと、
いまさらわれは、思うなり。
せめて吾子はもあの世より
この身にピストル撃ちもせば

こよなきことにぞ思うなるを
さるをピストル撃たばこそ
石ばかりなる、磧(かわら)なれ、
鴉声(あせい)くらいは聞けもすれ、
薄曇りせる、かの空を

眺めてありく ばかりなれ、
げにさばかりのことなれば、
げに命とや、何事ぞ?
なにせよ何も分らねば、
分りたいとは、思うなり。
 

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酒場にて(定稿)

 
今晩ああして元気に語り合っている人々も、
実は、元気ではないのです。

近代(いま)という今は尠(すくな)くも、
あんな具合な元気さで
いられる時代(とき)ではないのです。

諸君は僕を、「ほがらか」でないという。
しかし、そんな定規(じょうぎ)みたいな「ほがらか」なんぞはおやめなさい。

ほがらかとは、恐らくは、
悲しい時には悲しいだけ
悲しんでられることでしょう?

されば今晩かなしげに、こうして沈んでいる僕が、
輝き出(い)でる時もある。

さて、輝き出でるや、諸君は云(い)います、
「あれでああなのかねえ、
不思議みたいなもんだねえ」。

が、冗談じゃない、
僕は僕が輝けるように生きていた。
  
       (一九三六・一〇・一)
 

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酒場にて(初稿)

 
今晩ああして元気に語り合っている人々も、
実は元気ではないのです。

諸君は僕を「ほがらか」でないという。
然(しか)し、そんな定規(じょうぎ)みたいな「ほがらか」は棄て給(たま)え。

ほんとのほがらかは、
悲しい時に悲しいだけ悲しんでいられることでこそあれ。

さて、諸君の或者(あるもの)は僕の書いた物を見ていう、
「あんな泣き面で書けるものかねえ?」

が、冗談じゃない、
僕は僕が書くように生きていたのだ。
 

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(宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて)

 
宵(よい)に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音(ね)を聞いた。

  三富朽葉(くちば)よ、いまいずこ、
  明治時代よ、人力も
  今はすたれて瓦斯燈(ガスとう)は
  記憶の彼方(かなた)に明滅す。

宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音を聞いた。

  亡き明治ではあるけれど
  豆電球をツトとぼし
  秋の夜中に天井を
  みれば明治も甦る。

  ああ甦れ、甦れ、 
  今宵故人が風貌(ふうぼう)の
  げになつかしいなつかしい。
  死んだ明治も甦れ。

宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音を聞いた。
 

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嬰 児

 
カワイラチイネ、
おまえさんの鼻は、人間の鼻の模型だよ、
ホ、笑ってら、てんでこっちが笑うと、
いよいよ尤(もっと)もらしく笑い出す、おまえは
俺の心を和(やわら)げてくれるよ、ほんにさ、無精(むしょう)に和げてくれる、

その眼は大人っぽく、
横顔は、なんだか世間を知ってるようだ、
おまえを俺がどんなに愛しているか、
おまえは知らないけれど知ってるようなもんだ。

ホ、また笑ってる、声さえ立てて笑っている、
そのような笑いを大人達は頓馬(とんま)な笑いだという。
けれども俺は知っている、
生れてきたことは嬉(うれ)しいことなんだ
ただそれだけで既に十分嬉しいことなんだ

なんにもあせることなく、ただノオノオと、
生きていられる者があったらそいつはほんとに偉いんだ、
俺は知っている、おまえのように
生きているだけで既に嬉しい心を私は十分知っている。

 

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(他愛もない僕の歌が)

 
他愛(たあい)もない僕の歌が
何かの役には立つでしょうか?
僕の気は余り確かではありません
僕は死んだ方がましだと昨日思いました

芸術とは、畢(つい)に生活の余裕の
アナルキスチイクな希望です。
世話場への関心は、
詩人には何の利益をも齎(もたら)しません。

この上もう一段余裕がなくなれば、
カチカチのパンを寝床(ねどこ)の上でかじりながら、
汲(く)み置きの水を飲みながら、

ギタアのレコードかけて、
泣き笑いしたり、洟をかんだり、
いとも壮厳(そうごん)な死に際(ぎわ)を演じてごらんにいれます。
 

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(月の光は音もなし)

 
月の光は音もなし、
虫の鳴いてる草の上
月の光は溜(たま)ります

虫はなかなか鳴きまする
月ははるかな空にいて
見てはいますが聞こえない

虫は下界のためになき、
月は上界照らすなり、
虫は草にて鳴きまする。

やがて月にも聞えます、
私は虫の紹介者
月の世界の下僕(げぼく)です。
 

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(自然というものは、つまらなくはない)

 
自然というものは、つまらなくはない、
歯医者の女房なぞというのが、つまらないのだ。

よくもまああんなにしらばっくれてる、
でもね、あいつらにはあいつらで感情の世界があるのだ。

どっちみち心悸亢進(しんきこうしん)には近づきつつあるのだが、
そのうち隠居するという寸法なんだ。

つまりまあ馬鹿でなければ此(こ)の世に問題はない。
問題がなければ生きてはいられない。
 

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(頭を、ボーズにしてやろう)

 
頭を、ボーズにしてやろう
囚人刈りにしてやろう

ハモニカを吹こう
殖民地向きの、気軽さになってやろう

荷物を忘れて、
引っ越しをしてやろう

Anywhere out of the world
池の中に跳び込んでやろう

車夫になろう
債券が当った車夫のように走ろう

貯金帳を振り廻(まわ)して、
永遠に走ろう

奧さん達が笑うだろう
歯が拔ける程笑うだろう

Anywhere out of the world
真面目臭(くさ)っていられるかい。
 

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(南無 ダダ)

 
南無 ダダ
足駄(あしだ)なく、傘なく
  青春は、降り込められて、

水溜(たま)り、泡(あぶく)は
  のがれ、のがれゆく。

人よ、人生は、騒然たる沛雨(はいう)に似ている
  線香を、焚(た)いて
      部屋にはいるべきこと。

色町(いろまち)の女は愛嬌(あいきょう)、
 この雨の、中でも挨拶をしている
青い傘
  植木鉢も流れ、
    水盤も浮み、
 池の鯉はみな、逃げてゆく

永遠に、雨の中、町外れ、出前持ちは猪突(ちょとつ)し、
      私は、足駄なく傘なく、
    茲(ここ)、部屋の中に香を焚いて、
 チュウインガムも噛みたくはない。

 

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