こぞの雪今いずこ
みまかりし、吾子(あこ)はもけだし、今頃は
何をか求め、歩(あり)くらん?……
薄曇りせる、磧(かわら)をか?
何をも求めず、歌うたい
ただひとりして、歩くらん
何をも求(と)めず、生きし故(ゆえ)、
何をも求めず、暮らすらん。
何さえ求めず、歌うたい、
さびしとさえも、云(い)い出(い)でず、
ただひとりして、歩くらん。
さば、かくてこそ、あらばあれ、
さてそののちは、如何(いか)ならん?
ただつぶらなる、瞳して、
空を仰いで、ありもすれ、
さてそれだけにて、あるらんか?
もし、それだけの、ことならば、
よしそのうちに、欣怡(よろこび)の、
十分そなわるものとしても、
なお今生なるわが身には、
いたましこととおもわるなり。
なにせよ分らぬことなれば
分らぬこととは知りながら
分りたいとは思うなり
吾子はも如何に、なせるらん。
吾子はも何を、なせるらん。
想いもとどかぬことなれば
想いとどかぬことかなと、
いまさらわれは、思うなり。
せめて吾子はもあの世より
この身にピストル撃ちもせば
こよなきことにぞ思うなるを
さるをピストル撃たばこそ
石ばかりなる、磧(かわら)なれ、
鴉声(あせい)くらいは聞けもすれ、
薄曇りせる、かの空を
眺めてありく ばかりなれ、
げにさばかりのことなれば、
げに命とや、何事ぞ?
なにせよ何も分らねば、
分りたいとは、思うなり。